私のコンサル生から先日、こんな報告が届いた。

「毎日3時間かけてインスタ投稿していた作業が、今では週2回、30分で済むようになりました。しかも、収益は前月比で3倍になっています」

正直、この結果は予想していた。なぜなら、彼が最初に相談に来た時の状況があまりにも典型的だったからだ。

毎朝6時起き。投稿用の写真撮影に1時間。キャプション作成に1時間。ハッシュタグリサーチに30分。ストーリーズ投稿に30分。これを365日続けていたという。

「頑張っているのに全然稼げないんです」

これが彼の第一声だった。フォロワーは3000人超え。投稿頻度は毎日。エンゲージメント率も業界平均以上。数字だけ見れば申し分ない。

しかし、月の収益はわずか2万円。時給換算すると約220円。コンビニバイト以下の単価で消耗していた。

私は彼に一つの質問をした。

「あなたのフォロワーが本当に欲しがっているものを、具体的に3つ挙げてください」

30秒の沈黙の後、彼は答えた。

「えっと…インスタ映えする写真とか…役立つ情報とか…」

その瞬間、問題の本質が見えた。彼は3000人のフォロワーを持ちながら、彼らが何に困り、何を求めているのかを全く理解していなかった。

毎日投稿という作業に没頭するあまり、最も重要な「誰に何を届けるか」を見失っていたのだ。

実は、このコンサル生と全く同じ状況を、私自身も経験している。

今から4年前、SNSマーケティングを始めたばかりの頃の話だ。

とあるマーケティング塾で「毎日投稿すればフォロワーは必ず増える」「いいね数が多いほど売上に直結する」と教わった私は、血眼になってクリック数を追いかけていた。

朝6時に起床して投稿準備。昼休みに反応をチェック。夜中まで他のアカウントにコメント回り。これを毎日4ヶ月間続けた結果がこうだ。

数字だけ見れば「成功」に見える。しかし現実は残酷だった。

フォロワーの内訳を分析してみると、会社員40%、主婦25%、学生20%、フリーランス15%。一見バランス良く見えるが、私のサービスのターゲットは「年商1000万円以上を目指す経営者」だ。

要するに、4ヶ月間毎日3時間かけて、買う気が1ミリもない人たちに一生懸命アピールしていたということだ。

特に痛恨だったのが、投稿内容を「みんなに刺さりやすく」調整していたこと。経営の本質を語れば難しすぎて離脱される。だから表面的な「頑張れば夢は叶う」系の投稿ばかりになっていた。

結果、本当に必要としている経営者には「薄っぺらいアカウント」として認識され、完全にスルーされていた。

180万円分の時間を使って、ターゲットではない人たちから「いいね」をもらい続けていた。

SNSマーケティングにおける最大の罠は、「数字の増加=成功」という錯覚だ。

その後しばらくして、転機となる出来事が起きた。

会社の同僚との飲み会でのことだ。酔った勢いで、私は自分のSNSマーケティングの成果を自慢げに話していた。

「フォロワー数が1万人突破したんだよ。エンゲージメント率も業界平均の2倍でさ。クリック数も前月比150%アップ。データ的には完璧なんだ」

同僚たちは「すげー」「さすが」と言ってくれたが、一人だけ、営業部のベテラン田中さんが首をかしげていた。

「で、売上はどうなの？」

その質問に、私は言葉に詰まった。数字は伸びているのに、なぜか売上は横ばい。むしろ微減していた。

「数字は立派だけど、君の投稿見てて思うんだよね。何を伝えたいのかよくわからない」

田中さんの言葉は続いた。

「私、営業を20年やってるけど、お客さんが本当に求めてるのは数字じゃないよ。自分の悩みを理解してくれる人、解決してくれる人。君の投稿からは『フォロワー数を増やしたい』っていう気持ちしか伝わってこない」

酔いが一気に醒めた。

翌日、冷静になって自分の投稿を見返してみた。確かに田中さんの言う通りだった。いいね数を意識するあまり、当たり障りのない内容ばかり。読者が抱える具体的な悩みに向き合えていなかった。

試しに、フォロワーの一人一人がどんな課題を抱えているのか、DMや過去のコメントを詳しく分析してみた。すると見えてきたのは、数値データでは測れない生の声だった。

これらの本音を理解した瞬間、投稿内容は劇的に変わった。クリック数を追いかける投稿から、読者の心に寄り添う投稿へ。

結果として、投稿頻度は減ったが売上は3倍になった。

数字に踊らされている限り、顧客の本当のニーズは見えてこない。

その飲み会での気づきから、私は根本的に考え方を変えた。

「数字ではなく、人を見る」

これが、その後の私のマーケティングを劇的に変えた視点だった。

まず、私は自分のフォロワーを4つの層に分けて分析してみた。会社員、主婦、学生、フリーランス。それぞれの生活パターンを徹底的に観察したんだ。

この分析結果をもとに、投稿内容を完全に変えた。同じ「SNSで稼ぐ方法」でも、会社員には「通勤時間でできる3つの作業」、主婦には「家事の合間10分投稿術」、学生には「0円から始める収益化」、フリーランスには「月収を安定させる仕組み作り」という切り口で発信した。

数字を追いかけていた頃は、1万フォロワーで月収10万円程度だった。人を見るようになってからは、5千フォロワーで月収50万円を超えた。

マーケティングの本質は、数字ではない。人間理解だ。

各層の分析を終えた後、私は計測指標を根本的に見直した。

フォロワー数、いいね数、リーチ数。これらの「量的指標」を追いかけるのを一切やめて、3つの「質的指標」に絞ったんだ。

この転換を決めた理由は単純だ。会社員として働いていた経験から、本当に価値のあるものは「継続性」と「信頼性」にあることを知っていたからだ。

計測方法も変えた。毎日の投稿分析をやめて、週1回30分だけ。月曜日の朝に前週のデータをまとめて確認し、改善点を1つだけ決める。それだけ。

結果は驚くべきものだった。

投稿頻度は週2回に減らしたにも関わらず、問い合わせ率は3ヶ月で4倍になった。リピート率は68%から91%に上昇。紹介率に至っては、従来ほぼゼロだったものが月平均15件になった。

売上は結果として3倍になったが、これは副産物に過ぎない。本質は、顧客との関係性が劇的に改善したことだ。

冒頭で紹介したコンサル生も、全く同じ手法を実践して同様の結果を得ている。彼の場合、特に紹介率の改善が著しく、口コミだけで新規顧客の80%を獲得するようになった。

この一連の経験を通して、私は現在のマーケティング業界に蔓延する深刻な問題に気づいた。

「テンプレート思考の蔓延」である。

毎日投稿しろ、ハッシュタグは30個つけろ、ストーリーズは15秒以内にしろ、投稿時間は19時がベスト…。巷には無数の「成功法則」が溢れている。

しかし、これらはすべて表面的な手法に過ぎない。

実際、私のコンサル生の多くが最初に持参するのは、こうしたテンプレートで埋め尽くされた分厚いノートだった。セミナーや教材で学んだ「成功の型」を必死にメモしたものばかり。

「これだけ勉強しているのに、なぜ結果が出ないんですか？」

彼らは真剣にそう質問してくる。しかし、答えは明白だ。テンプレートは所詮、他人の成功体験を一般化したものに過ぎない。あなたの顧客に刺さる保証はどこにもない。

私がフォロワー数1万人でも売上が伸びなかった理由も、まさにここにあった。数字という表面的な指標に踊らされ、目の前の人間を見ていなかったのだ。

一方で、質的指標への転換後、私の売上が3倍になったのはなぜか？

答えは単純だ。顧客の本質的なニーズを理解し、それに応える投稿ができるようになったからである。会社員の朝7時の電車内での心境、主婦の14時のカフェでの不安、フリーランスの深夜作業中の孤独感。これらの「見えない感情」に寄り添えた時、初めて心に響くコンテンツが生まれる。

しかし、多くの人はこの本質的な顧客理解を軽視する。なぜなら、テンプレートを覚える方が楽だからだ。思考停止状態で作業をこなせば、何となく「頑張っている感」は得られる。

だが、その先に待っているのは私が経験した4ヶ月間の悪夢だけである。

選択は自由だが、時間は有限だということだけは忘れないでほしい。